人生とは壮大なパズルを完成させるようなもの
正しいピースを集めて、あてはめて、その絵を形どっていく
ドラクエのように歩いて、人と出会って、話を聞いて
ピースを集めていく
前に進まなくては、始まらない
「もう、“行って” もいいよ・・・」
旦那さんは、旅立つ1週間前、退院してきた
最期の時間を過ごすため、自宅へと帰ってきたのだ
それは新たな困難のはじまりでもあった
痛みは四六時中、彼の体を襲い、痛み止めは効かない
医療用麻薬も無意味だった
ふと、こんなことを口走った
「俺、もう、いいよね・・・」
すぐには答えられなかった
答えてしまったら、すぐに逝ってしまうと思ったから
痛みは絶え間なく襲い、彼の正気を狂わせていった
痛み止めが辛うじて効くと、
「安楽死ってできないのかな・・・?」
と、死を願うことを口にすることが多くなった
どれだけの痛み、どれだけの苦しみ、
私には到底理解ができない
そして、何もしてあげることもできない
私はそっと言った
「もう、逝ってもいいよ」
私が泣くから、悲しむから彼は旅立てない
そのままでは、痛みの中にずっとその身を置くことになる
もう、十分に闘った
見送らなくては
私が唯一できること
何もできない私からの唯一のしてあげられること・・・・
死臭が漂いだす もう時間がない
旅立ちの1日前
部屋に入ると、今まで感じたことのない“臭い”を感じた
それまでは無臭だった部屋
排せつ物の臭い
いわゆる「うんち」の臭いがしたのだ
漏らしているわけではない
ここ3日は固形物を口にしていない
漏らそうにも何もない
嫌な予感がした
「まさか、これが“死臭”なのだろうか?
だとしたら、あと、どのくらいなのだろうか」
そして、耳たぶが後ろへと折れ曲がっていた
明らかに体に変化が出ている
指先は黒ずみ冷たくなっていて、足先も冷たい
会話もちぐはぐになり、かみ合わない
大丈夫なのか心配になった
なぜならこの日は彼の兄弟たちが彼の見舞いにやってくる日だったから
最後の奇跡
2023年2月1日(水)
この日は予定がたくさん入っていた
午前中は彼の兄弟たちが見舞いにやってくる
午後からは訪問医がやってくる
限界を迎えつつある彼の体には、たくさんの負担がかかる日になっていた
午前中、彼の兄弟たちがやってきた
明るく楽しそうに話す
私は、買い物に出かけるため、
彼のことをお願いして出かけた
1時間ほどして帰ると、笑い声が聞こえてきた
きっと話が盛り上がっていたのだろう
その様子に私はとても驚いた
笑える体力なんてどこにあったのだろう?
話を続ける体力なんてどこにあったのだろう?
きっと、悔いを残したくなくて、最後の力を振り絞ったのだろう
そして、楽しいまま最期を迎えたかったのかもしれない
兄弟たちが帰ったら、また痛みが容赦なく彼を襲った
彼だけの片道切符
訪問医がやってきて診察をする
彼の様子を見て、もうわかっていたような気がする
「“最後”まできちんと面倒をみますよ」
不安にさせないように、いろいろな対処案を出していたが、
説明が全部上滑りしていた
そして、薬の増量指示が出された
痛みが強くなったら、1時間おきに座薬を挿していい、と
医者が帰ると、彼の意識は低下しだした
目はあいているが、たぶん、何も認識できていなかったのだろう
目線は定まらず、たまに、はっとなり目線が定まるが
すぐに定まらなくなる
きっと見えていなかったのだろう
体はけいれんを起こし、腕を左右に振り、足は左右に揺れる
「うー、うー、」
もう言葉を発することはできなくなっていた
1時間おきに座薬を挿す
アンペックという座薬
モルヒネである
強力な分、意識をどんどん刈り取っていった
体も、意識もコントロールすることはできなくなっていた
ただ、痛みと肉体だけがそこにはあった
そして、
彼はそっと ひとり 旅立った
彼だけの片道切符を持って
最後に楽しい思い出を持って
後ろを振り向くことなく
旅立っていった
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